理事長 滝沢茂男 挨拶
希望の革命始まる
本稿は「希望の革命始まる」と題しています。持続可能な超高齢社会の構築に関し、現在の問題を明らかにし、我々の研究・普及活動と、その事実を基礎とした実現可能な解決策をお示し、読者と共に「希望の革命」を実現したいと願っています。
その実現に向け、二つのパラダイムシフトの実現を期しています。
共に手を取り合って、実現したいとの気持ちをお伝えできればと願っています。
人口ピラミッド逆転
人口転換が進み人口ピラミッドが逆転するという人類史上初めて事態が起こります。究極の人口転換の社会において持続可能な超高齢社会の構築は可能なのか?我々人類はこの事態に対応することができるのか?特に日本で少子化による社会の高齢化・人口減少は急激です。
少子化・人口転換の進展から、国民は年金・医療・介護の社会保障の安定性に危惧の念を持っています。世代間の受給格差も明らかになっています。国民には社会崩壊に対する諦観が見られるといっても過言ではありません。
この改善に期待した、過去の政治、現在の政治、そして道州制導入を進めるであろうこれからの政治が重要であることは当然です。しかし、政治制度を変えるだけで人口ピラミッド逆転という現在の文明に対する危機を克服できるのでしょうか?
福沢諭吉は徳川幕府から明治政府へ転換の際に砲声を聞きながら塾生の勉学を督励しました。制度の変更も大事であることは明らかですが、次世代を担う青年の教育を新時代確立の基礎としたこうした前例もあります。
希望の革命とは
私たちはリハビリテーション(リハ)医学の再構築を目指しています。昨年ルーマニアとポーランドで開催したワークショップと国際学会で「希望の革命」の始まりを宣言しました。大会を開催したルーマニアとポーランドは、共産主義の終焉に大きく貢献する革命を実現した国です。その革命の地で「希望の革命」を実現する、すなわち「高齢障害者が再構築されたリハ医学の実施により、介護依存から自立を果たし、生活自立を前提とした社会を構築する」という、「人々と社会の在り方の革命・改革を実現する」スタートであるとしました。
リハ手法でいうと、他動的なリハから、器具を用いて健康な四肢で障害を得た四肢を同時同方向へ動かす創動運動を中心とした、自律的なリハビリ重視のプログラム化されたタキザワ式への変更です。一定の成果を得たと考え、「希望の革命」の始まりを宣言したのです。
パラダイムシフト
ある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」の転換であるパラダイムシフトについて、筆者は、アウトサイダーの絶え間ない努力と、特に科学分野においては、その努力に裏打ちされる科学的機序の解明が必要であると考えています。そして人口ピラミッド逆転社会の社会崩壊を防ぐ「希望の革命」実現のためには、二つのパラダイムシフトが必要であると考えています。
一つはリハ医学のパラダイムシフト(リハ医学再構築)です。その内容は、1998年以来「リハ医学の革新・障害を克服できるリハ医学の確立」など多くの論文・記事で明らかにしてきましたが、これまでのリハ医学の中核概念「障害の受容」を「障害の克服」に転換するとしたものです。しかし、パラダイムシフトの実現には厚生労働省の政策に反映される必要があり、さらに一段の研究が必要です。「障害の克服」が可能になると、障害を持っても自立して生活ができます。介護に依存しないで済むのです。
第二のパラダイムシフトは「障害を持っても自立して生活できる」ことから生まれる国民生活・国民意識に係るものです。「治らないのだから障害を得たら介護を受ければよい」から生まれてくる「依存する」考え方の変革です。「お上(官僚や政治家)に任せておけばよい」「皆で渡れば怖くない」とする考え方の変革です。
希望の革命とは、「政治制度を変える」ことも重要ですが、社会に生きる人々が、「自ら生活自立を前提とした社会を構築する」ことが可能な社会確立を、年金や終末期医療などの受け取る社会保障の課題に切り込み、さらに再構築されたリハ医学の実施により、実現することなのです。
「BIOPHILIA」
明治維新は、政治制度の転換です。生活面で見ると、それまで農耕文明で生活してきた人々にとり、新田開発適地がなくなり、増加していた人口を養えなくなったのです。そして人口減少が起きました。そうした時期に、黒船の刺激で、工業化文明へ転換した一面を持つと、筆者は考えています。今我々も人口減少に直面し、そうした文明の転換時期にいるのではないでしょうか?
私たちの新機関誌名「BIOPHILIA」は、「生命への愛」、「生命を脅かす危険を十分に認識した時に各々が持つ生命へ愛の力で、私たちが社会を組織する方法に大きな変化をもたらす行動に移る」を意味しています。
福沢先生由来の地三田の山・慶應義塾大学旧図書館から、報告会・ワークショップを公開することにより、我々の活動を世界に向けて発信できたことを誇りに思っています。そして読者諸兄が我々と隊伍を組み、希望の革命実現へ進んでくださることを願っています。
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